アカシアの道 第四節

当時、冴子とのことは日常の中で起こっている現在進行形の事で、どこか「ン?」と、違和感があってもそれに直面しているそのひとときは、それこそが「現実」で、他のことはあまり入りこんでこない。だが、あとから冷静に思い返すと、なんで?いったいどうなっているの?そんなことが多かったのも確かだ。



20代の最初、冴子は、東京のアパートで暮していて、その頃私は東海地方に居た。
ある日彼女のアパートに遊びに行き、ランチ後ショッピングをして、荷物をコインロッカーに預け、新幹線で帰る前に電車に乗って、住んでいるアパートに案内された。

夕暮れ迫る中、アパート近くの商店街を歩きながら、楽しく笑い合った昼前からの雰囲気とはまた別の真面目な顔で、冴子は話し始めた。

 彼が居る事はしっていたが、詳しく聞いたのはその時が始めてだった。
×××の国に旅行した時に出逢い、それ以降時々泊まることもあること。
彼は、少し、いや、だいぶ変わっていて(詳しいことは言わず)紹介するけれど、挨拶くらいにして欲しいこと。何か気に障ることを言われても全く気にしないで欲しい事。それはこちら側の問題なので……。
ということだった。

「本当は部屋でゆっくりしたいんだけど、今日、居るから」

「あ、そうなんだ」

良くは分からなかったけど、そう注意するからには、よほど変わっているのだろう。と、階段をカンカンと上りながら少し緊張していた。

「でも、会いたいって言っていたから、そう変なことは言わないとは思うけれど…」

入り口に立って、ノックをしてから、鍵を開ける冴子。
「・・・・さん、いつも話している△△△さん。これから電車のって、東京駅から帰るから、その前に顔だけね…」
「こんにちは」そう言いながら、玄関に一歩踏み込んで声を掛け、チラッと本当にチラッと相手の姿と部屋の中を見た。

今では部屋の中のことは全く覚えていない。
彼についても、その時の印象は、≪眼鏡をかけている。細面の横顔≫としか覚えていない。

そして彼は、……こちらを一瞬見て、軽くお辞儀をした。その間全くの無言だった。

「じゃ、行くね」

え、これだけ……。内心、そう思った。
これだけのことのために、わざわざ電車に乗り、雑踏の中を15分近く歩いてきたの?
いったい何のためにここまで来たの?本当に顔を見せるだけ?

冴子はもう扉を閉めて、アパートの階段を降りている。
さっき来た方向とは違う道を、冴子は先頭に立ち、案内するように黙々と歩いていく。
アパートから数分歩いたあとに着いたのは、さっき降り立ったのとは違う私鉄の駅だった。

頭の中に湧いた??をそのままに、その最寄り駅の自動販売機で切符を買う。
(ここまで本当に無言で、冴子にしては凄い早足で歩いてきた。肌寒い季節、汗ばんだことを覚えている)
ホームに立つ人影もまばらで、冴子の硬い表情はこのホームでようやく緩み、「ごめんね。急がせて」と、言ってきた。
「いや、大丈夫。これだと、予定より早いくらいだから、東京駅早く着くね」
そんな、たわいもないことを二言・三言話す間に、電車が滑り込んできた。

扉が開く。
電車の車両数は5両位だったのではないだろうか。その真ん中くらいの車両に脚を踏み入れ、スカスカに空いていた車内の長いすの真ん中辺に腰掛けた。
ゴトン…電車が動き出す。

ん!!……目の前に、今、アパートで会ったはずの冴子の彼氏が座っていた。

思わず目をパチパチさせてから、左隣にいた冴子の脇腹を無言で肘でつついた。

小声で「そのまま、知らないふりをして」という冴子のいうがまま、塑像のように動かず、目はあらぬ方向に流す。



いったい、どうなっているのだろうか?同じホームからこの車両に乗った人は、右向こうに腰掛けている人だけだ。(ホームに居た人は少なく、同じ車両に乗り込んだ人の人相・風体を覚えていた)
だとしたら、「前の駅」からこの車両に乗ったのだろうか。
この電車だと推測し、この車両に乗るだろうと、私達が早足でこの駅に着く以上に早く前の駅に行って、乗りこんだのか。
そして、話しかけるでもなく、前に座り込んでいるのか!?
そう考えた途端、ブルッと震えが起こった。何か得体の知れない恐怖感のようなものが襲ってきた。

冴子のことが信用出来ないからツケテいるのか?
それとも、私と一緒だということが気に入らないのか?大事な休日を、自分と一緒ではなく、私と過ごしたと怒って(あるいは、冴子をとられたと、そんな嫉妬のような心で)、それを態度で冴子に示しているのか?

でも、冴子の目の前に堂々と姿を現すのだから、ツケテいるというのではないのだろう。それに、怒っているのなら、こんな行動ではなく、この日の最初からなにかアクションがあるだろう。もう帰る時間に行動を起しても、意味は無い……。
いったい、どういうことなのか……。

これを、変わっているというのであれば、本当に、変わっている。


冴子といえば、また硬い表情になっていた。

冴子からはそのまま、何も言われぬままで、こちらからも何も話しかけられないまま、さらに乗り換えて東京駅に着き、別れ際の最後に「ごめんね」といった冴子に「大丈夫?……また手紙書くから」と言ったのが、この日帰り旅行の最後になった。


それから、≪あの時の彼とは別れました≫と書かれた一文の手紙が来た。
本や映画、ファッションのこと、東京を離れ、親元に帰る。という最後に、その一文がポツリと≪追伸≫として書かれていた。

新幹線で帰ってから私が出した手紙の中に≪目の前に居て驚きました≫とは書いた。
しかし、あの時のことについての詳しい前後のいきさつは全く聞けず、冴子からも言わず、それで【終わった】ことになったのだ。その、≪別れました≫の一文で。


今になって「聞いてみたい」と思うのは、もう冴子に現実には聞くことが出来ないのがわかっていて、声を姿を意識をもう一度と、ふと思うからかもしれないのだが。


。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。

アカシアの道、久しぶりです。

   
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# by hitomi8114-i | 2008-02-07 10:58 | 小説・詩・読み物

冷たい心の棲家

 副題 ― 首筋に氷の刃を突き立てて


氷の中は  静かです

案外     温かいです

麻痺する   あったかさです

芯まで    ジンと痺れます

一緒にどうですか  冷たいあったかさ   好きでしょ

冷たい 心まで凍える言葉で 氷の世界へ 人を追いやっている君だもの
 
もう  氷の世界のあったかさしか   君には必要ないよね  
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# by hitomi8114-i | 2008-01-31 20:10 | 小説・詩・読み物

  気づき



玉(ぎょく)の存在に気づいた者は

柔らかな感受性を持って  飛び回る



否定もせず  妥協もせず  選び取って吸収し 
 
さらに  玉を磨く




迷いも  諦めも 戸惑いも  不安も

全てを受け入れて   あるがままの心

玉を   鈍らせはしない




。・。・。・。・。・。・。・。。・。・。・。・。・。・。


12月29日に途中まで書いて、以後保留にしていたもの。
(いろいろあって)舞い戻ってきた。という感じです。
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# by hitomi8114-i | 2008-01-18 19:25 | 小説・詩・読み物

自分を汚すのは?


溜まっていく・・・・割り切れない 苦々しい 嫌な 様々が

澱として 垢として 重しとして

こびりつき

臭いを放ち

時として洗い流しながら、また同じことの繰り返し

手足を突き出し  胸を広げ  大好きなことをするのだが

塊と重石は行く手をさえぎる


いっそ 誰かのせいにして

いっそ 何も見なかったことにして

いっそ 蓋をしたまま


そのまま・・・・・・・・・・・・・・




生きていることの
存在の
命の



それを汚すのが自分?

答えは・・・・

 
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# by hitomi8114-i | 2008-01-06 18:27 | 小説・詩・読み物

 影  



まぶしく、輝く光の中にいたとき

その只中にいるとき

光 だけが見え、 正体が  見えていなかった




影が見えたとき、  初めて  光の中身(正体)  を 見た

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# by hitomi8114-i | 2007-12-28 17:08 | 小説・詩・読み物

苦しく 、 ないですか



苦しく、ないですか……

自分の中さえ、自分で覆い隠しているときって、ある。と、思う

偽りではない。でも、全てではない。それが生きるってこと?そんな風に思うときってあると、思う

心をえぐってまで見つめることって、難しい。と、思う 


                                     


そばに、誰がいますか……                  

挨拶してくれた、微笑んでくれた、言葉を交わした人。
クスッと笑い、肩をたたき合い、大きな声で語りあえる人。
ペット、ネットの中の知り合い、実際の知人、友人、恋人、家族……




言葉に、歌に、写真に、絵に、身体の動きに、自分の持つ感覚に、そっと滲ませて溶かしてみては……
抱きしめるように、そっと……  
                         
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# by hitomi8114-i | 2007-12-28 15:57 | 小説・詩・読み物

アカシアの道 第三節

アカシアの花びらの蜜を、直接口をつけて吸い取ったことがある人は、多いのだろうか。

冴子は、とても上手かった。

「ねぇ、どうやって吸うの?教えて―」
「わたしが先よ」
吸っている様子を見て、小学生が声をかけてくる。
道の片隅に固まっていると、なんだろう?と思った子が、「教えて」と、また、我先に花びらの房ごと取ってやってくる。

小学生が見上げる遥か高い位置に花の房は垂れていることが多く、勢い、側で見ている一未に「ねえ、お花取って~」と、せがんでくる子がいる。
一未は、持っていた傘の柄を空中に伸ばし、まあまあ届く範囲の房をたぐり寄せ、数人の子に渡してあげる。


「一未も、やってみる?」
「え、いいよ。苦い~って、さっきの子が言っていたじゃない」
「大丈夫。ちょっと、舌を思いっきり出して」

躊躇しながらも、舌を出すと、
「もっと!なが~く」と、言いながら、花びらの奥にクッと差し込んだ舌と口を細くして、すぐに花びらから離し、出した一未の舌の上に、冴子の舌の上にあるものを、トンと、載せてくれる。

驚いて、舌を口の中にヒュッと戻すと同時に、ただ2滴ほど載せられた液体が、口中にフワッと広がり、すぐに無くなる。
「あ、甘い…」ホンの少しの淡く、でも苦い甘さ。

「でしょ。吸い方、教えてあげる」
そう言われて、花びらを取ってきて吸い方を教えて貰ったが、一向に上達せず、その後、日を変えて何回か一人でもやってみたのだが、苦味が広がって、あのほんのりした蜜には、出会えなかった。


もう、花もおしまいという頃、進路に迷っていた一未は、学校の個人面談が終わった後、だいぶ葉が硬くなり、花房が少なくなった道をうなだれながら歩いていた。
 後ろから、違うクラスで面談を終えた冴子が声をかけた。
「決まった?進路」
「ううん、まだ。図書館司書は興味あるし、医療系はもっとやりがいあると思うし、未だに迷ってる。もう冴子は決まったんだよね」
「就職はほぼ。ただ夜間の大学の学部に関してはいろいろとね。でも受験に関しては一未ほどがんばらなくてもよさそうだけど」



6月下旬。長い道の両端の樹々から放たれる、甘い香りを放つニセアカシアの花房が、久しぶりの故郷に帰った一未を、抱きしめてくれたように感じた。

このアカシアの花房をデザインして、冴子は賞を貰った。
賞が発表になる前、髪が長い一未にと、その髪飾りを誕生日に贈ってくれたのだ。
ブローチ、ネックレス、イヤリング、宝石箱……スケッチブックに沢山書いてあったデッサンを、工房の主任デザイナーという恭子さんから、見せて貰ったことがある。
そのスケッチは、冴子のご両親に手渡された。
今思えば、冴子自身の生き様が、デザインの奥にある影に表れていたように思われる。


彫金を施した髪飾りを握り締め、冴子を想う。
あの時、進路について迷っている一未に冴子が言った言葉。

「ねえ、一未の場合は、その濁りが無いまま進むといいと思うよ。いろいろ試したけど、結局そのままだったから、本物だよ。大丈夫」
冴子が進路以外の何について話していたのか、今もって分からない。

そのすぐあと、花房から集めた蜜を、半強制的に開けさせた口の中に、タッタタと落とし、そのまま唇を重ねたことで、その言葉の意味を問うことさえ出来なかったのだから。

驚いて、でもそのままじっと甘さと少しの苦さ、そしてその行動をとった冴子の心の中を探っていた。

蜜の味や唇の感触を覚えていなければ、そんなことがあったことさえ、朧げになってしまったかもしれないのだが……忘れられない。

賞の発表の前日に、永遠に旅立ってしまった冴子。
あれから、もう十数年が経った。
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# by hitomi8114-i | 2007-12-26 14:24 | 小説・詩・読み物

アカシアの道 第二節

白神山地が世界遺産に認定されるような、そんな動きさえも無い頃、冴子が所属する美術部に一未は加えてもらい、白神山地のすそ野を歩き、さらに電車に乗って、十二湖のスケッチ旅行をしたことがありました。

あと2日間を残すだけとなった合宿の朝、これまでのぐずついた空模様とはうって変わって、久しぶりに太陽が照りつけた夏らしい、暑さが期待できる日になりそうで、皆スケッチブックとコンテの用意をし、水絵の具の準備までする人もいて、張り切っていました。

水筒やお昼ごはんのおにぎりを宿に人数分頼んでいたのでそれも各々持ち、いよいよ十二湖へ歩き出しました。

大小合わせて三十を越える湖や沼で形成されている「十二湖」のなかで、これを描きたいと思う対象を見つけるのは、まず自分の目で見てからでないと決められない。と、いうことで、思い思いの所を描く。ということになっていました。

冴子を含めた女性陣6名は、男子部員とは別のルートで順調に歩き出し、2名の先頭者はどんどん歩いて行き、冴子や一未を含む残りの4名は、お天気の良くなった空や、景色を眺めながら歩いていました。



「ねえ、一未、調子悪いの?」

急に歩くスピードが遅くなった一未に気づいたメンバーは、歩みを止めて道の端の方に寄り、休んでくれました。
水を飲んだり深呼吸をしたりしましたが、脚が重く呼吸が苦しくて胸苦しいのは変わりません。

「ごめん。おかしいね。さっきまでなんとも無かったのに、急に苦しくなって、気持悪くなったの」

「顔、蒼いよ。宿帰ろうか」

「いや、せっかくお天気になったんだし。ここで休んでいるから、先行って。描くことが目的なんだから。大丈夫、少し休んだら、自分でも描く所見つけて、時間になったらちゃんと宿に戻るから」

「じゃ、描く所決めたら、戻ってくるよ。それまでここにいて休んでいて。戻ってきた時、まだ調子悪かったら宿に先に帰ろう」

冴子を含む3人が振り向きながら歩いていくのを、座り込んだまま見送って、数分が経った頃、段々頭の重苦しさが晴れ、胸苦しさも脚の重さも取れてきたように思いました。

これなら、皆のあとを追いかけられるかも。
そう思って立ち上がり、前に一歩踏み出そうとするのですが、なぜか脚が前に出ません。気持は皆と一緒の方に行きたいと思っているのに、足が先に出ないのです。

しばらく頑張ってみましたが、どうしても進みません。
諦めて、皆が来るまでここで待っていようと思ったとき、後ろの方でなぜか凄い音(ギャーという音に似たような、耳を覆いたくなるような)がしたように、感じました。


ハッと振り向いた時、前に出なかった脚は、後ろの右奥のほうに、なぜか踏み出していました。
その右奥のほうに、向かおうという気持ちなど全く無いのに、自然と、足がどんどん進んで行くのです。


夏のはずなのに青葉に覆われていない、どちらかというと、晩秋のように裸木に茶色や紅くなった葉が数枚付いている木々の間を、あり得ない様な速さで下る。
早く下りていくので、身体に当たる枝が、ピシッ、ポキッと折れる音が、空から見ているもう一人の一未に聞こえ、緩い下り坂ながら、足下で落ち葉の音がガサガサとして、枯れ葉の匂いまでしてくるのです。

(もう一人の一未が、鳥のような目で、下りる一未を見ている。とでも言えばいいでしょうか)

どれだけ下りていくのか、これほど早く下りて行っているのに、まだまだ先があることが、一未の中では(初めて来たところなのに)判っているような感じ。
それを  あ、判っているのね。 と、思う一未がいます。
もう一つ変なこと。
誰にも会わないのです。
ここは観光地。
休むまでにも、幾人もの方々を見ました。なのに、誰にも会わない。
下りて行く一未自身の姿を見ながら、そんなことを思っていました。

突然、景色が変わり、それほど大きく無い、透明の水を湛えた池?が、行き止まりになった足元の、数メートル下に広がっていました。

透明でありながら、周りの景色の晩秋のような茶系の色を映してはいず、どちらかというと春に近いような、澄んだ蒼色と淡い新緑の色を混ぜ合わせたような水面。
底には朽ちた木々が幾年もの間眠っているように、黒く細くなったものがあらゆる角度に堆積しているのが、立っている所からでも見渡せました。

(その時見ていた目は、立っている一未の目か、もう一人の俯瞰するような一未の目か、今ではどちらともいえないのですが)周囲をグルッと、ゆっくりと見渡した後、 ん? と思って残像を捜すように、目の端に残った何かに気づいてもう一度そこに目を向けるように、何かが気になりました。


鹿…だ。立派な角を持った鹿がこちらを向き、じっと動かずにこっちを見ているのです(今から思うと、あの時鹿と思ったのは、カモシカだったようにおもえます)
そして、その足元に何か……猿?いえ、猿のような、犬のような何か、今まで見たことも無いような生き物。
その何かのような生き物と鹿が、見れば見るほど、分けがわからない、不可思議な生き物。物体に思えました。



その時、初めて怖い!!と感じ、いいようのない怖さに、目をそらすことが出来ませんでした。
引き込まれるような怖さを感じた瞬間、目を固く閉じてしまったように思います。




「一未、一未!!」
呼ばれた気がして上を見上げ、怖いと思って思わず閉じたのだろう目を開けると、見上げた目の上に、冴子がもう一人の美術部員と共に側に立っていました。

「こんなに暑いのに、凄い身体冷えてるよ。熱上がるんじゃない?もっと気分悪そうだね」

二人は、気になって途中で引き返してきたのだと、あとで教えてくれました。
呼んでも反応が無いので、叩いたり、ゆすったり、耳もとで名前を呼んで、ようやく反応があって、目を開けたことを、宿に戻って、横になった布団の側で話してくれました。

一未は、横になったまま、見たことをその二人にかいつまんではなしたのですが、今一つ、ピンと来なかったようで、気持悪くて変な夢でも見たんでしょう。ということに落ち着いたのです。


でも、冴子があとで二人になったときに言ったのです。
「声、気持悪かったでしょ」って。
では、あの声を、冴子も聞いたことがあるなら、夢ではないはず。
そう思って、再度話そうとすると、もう話題を他のことに持っていっているのです。



今でも分かりません。
現実のこととは、未だに思えない。でも、気持悪い声も、身体にあたる枝の痛さも、何より鹿と得体の知れない生き物を、未だに覚えている一未なのです。
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# by hitomi8114-i | 2007-12-24 18:43 | 小説・詩・読み物

アカシアの道 第一節

はじめに(2007.12.23 記)

「アカシアの道」と名づけた、これから紡ぐ各章は、今はもうこの世にいない彼女(仮に、冴子と名づけます)との現実の様々を主体(7割)とし、そこに彩り(3割)を加えた物として、お届けしたいと思います。

今こうして、ここに綴ることは、親友であった冴子と、もう一度話し、一緒に遊び、互いに笑い・涙し、そして「え?」と思う不可思議な世界をもう一度体験することに似ていて、今思っても本当に現実にあったことなのか……と思うときがあります。
どうぞ、皆様も一未(ひとみ) と冴子の世界を、覘いてみてください。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

6月、ニセアカシアが、歩道の両脇に等間隔に植えられ、幾万もの白い房の花びらから香る甘い匂いに包まれた道の半ばで、一人は怒りに手を大きく振って話し、一人はまあまあというように手でなだめようとしながら、立ち止まって話していた。

「ちょっと待ってよ、冴子。何を怒っているの?なんで、あなたが怒るの?」

「解らないの?侮辱されたのよ。なんで一未は怒らないの?歯がゆいわね!!そんなことだとまた同じように一未がしたことにされちゃうかもしれないのよ」


事の始まりは、担任の竹田先生が配っておくようにと、クラス委員長の慶子に頼んだプリントの束が、どういうわけか紛失していて、慶子が「自分は他にやることがあるから、その時そばに居た一未に頼んだ。紛失したのは一未のせいだ。その証拠に、一未のカバンにはそのプリントが入っているはずだ」と言い出したことだった。

そう言われて、その場にいる皆が一未のカバンを注視している中で、持ち主の一未がカバンを開けると、ピラッと中表に半分に折られたプリントが床の上にハラリと、落ち、皆がいっせいに、一未を見つめたのだ。

それまでは、まさか。 という雰囲気だったのが、ガラリと変わり非難するような目が襲い掛かってきた。

そこに、
「一未は、いつも中表には折らないわよ。プリントも、他も、彼女は基本外表に折る人なの。誰かが、一未のせいにしようとしているんじゃないの」
他の掃除場所を終えた冴子が言い、カバンに入っている他のプリントを出して、先生やその場にいるクラスメイトに見せた。
(確かに、プリント類を外表に折るのが癖でした。)


冴子が外表に折ったプリントを皆に示しているとき
一未は、床に落ちたプリントを手にし「このプリントが無くなった物なら、コピ―して配りましょうか」と、先生に訊ねていた。

それを聞いた冴子は声を荒げた。
「一未、そんな風な態度だから利用されてしまうのよ。はっきり言わないと、だめ!!また慶子からやってもいないこと言われてしまうわよ」

慶子はじっと目をこちらに向け、何か言いたそうにしている。

「さ、みんな、クラブが待っているぞ。解散だ。プリントは明日配るからな」
そう言った竹田先生は、そのプリントを持って職員室に向かって行った。

慶子の言っていることにも、冴子や一未の言動にも、先生は白黒つけず、もうそれ以上関わろうとしない態度に、クラスの皆は敏感に感じ取り、蜘蛛の子を散らすように各々の荷物を手に、あっという間に居なくなってしまった。


「慶子、一未に謝ったら」

「ふん、なんでこの私が誤るの。“正直者で、清い心の持ち主です”って顔してる一未、見ているだけで、イラつくのよ。いつかみんなの前で正体をばらしてやるからね」
と、言いたいことを言って、慶子は先に教室を出て行った。

その捨てぜりふに、一言も言わなかったことを、冴子は怒っているのだ。

でも、言葉の意味を良く咀嚼し、その言葉がどうして出て、意味は何だったのかを知りたいのが一未だった。

今回のことで言えば、正直者で、清い心なんかではないのに、なぜそう思い、そのことの何が慶子をムカつかせたのか、さらにはどんな正体を一未の中に見ていてこんな言動に出たのかを。

冴子はため息をついて、道端の乾いた石に腰掛けた。
「アカシアの樹に例えると、一未は樹全体を見て、さらに樹の中に流れている養分まで見ようとして、慶子はアカシア花が放つ香りに気を取られている。そのくらい観点が違うということかな」

そう言われて、一未にも、ようやく慶子が自分から受ける印象を言ったのだとさっきの捨てぜりふを理解しかけた時、先に帰った筈の慶子が向こうから歩いて来るのが見えた。

どんどん距離が縮まり、二人が腰掛けている近くで立ち止まった慶子が発した言葉は、
「友達、他にいないの?いっつも二人一緒で」

えっ、そんなことないよ。冴子は、私以外にもいっぱい友達いるし……
そう言おうとした時、頭の上の方から凄い“風の塊”のようなものが襲い掛かってきた。



身体が浮き上がるかと思われるほどの圧倒的な力。
座っていた石に手を付いたことだけは覚えている。


風が収まったと気がつき、瞼を力強くパチパチさせて周りを見渡すと、慶子?が倒れている。身体中にアカシアの花と葉が付き、まるで太い枝に花が咲いていて、その枝が折れたように、倒れていた。

冴子は?
今まで横に並んで座っていたはずなのに、風に飛ばされた??

いや、道の向こう。慶子に近づこうとしている人。慶子の顔や、頭に付いている白い花びらや緑の葉を取り除きながら、何かを語リかけている人。
冴子だ。

一緒に、倒れている慶子を起こそう。

だが、その時目は二人を見ているのに、身体が思うとおりに動かなかった。


翌日から変わったことが一つだけ起こった。
わざと無視をしているというのでは無く、視野にさえ入っていないのではないかという態度に変わったことだった。
慶子はその日以来、全く一未に話しかけることが・・・無くなった。




 
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# by hitomi8114-i | 2007-12-23 03:20 | 小説・詩・読み物

死から見る生

今、ここに目を留めて下さいました方は、これまでどれほどの方々の「死」を見つめてきたのでしょうか?

肉親・友人・知人の死をお見送りするのはいうに及ばず、偶然に出会った事故死、自死の現場やチラッと通りがかりにその現場を見たとか、あるいは自分の乗っている電車が駅に着いた時、向かい側の車両の下から担架に乗せられた人の手が出ていた。などというのも含めて。

さらに言えば戦時下での様々な死や仕事として死に直面する場合も含めて。

【今日は、「ひとみ」をお休みして、タイトルにあることを個人的に綴ってみたいと思います】

 hitomi8は、現実に死にかけたというか、自分がその場に直面して、死に至るかもしれない。怖い、いやだ。と認識した、水難事故にあったことがあります。
まだ小学生になる前でしたが。

 詳しく書くと長くなるので割愛しますが、他の人間の助けを借りずにその事故の現場から自宅に戻ってきたらしく (なぜ、“らしく”かというと、hitomi8の中にその時の一部の記憶が無く、そのとき家にいた人の話をあとで聞いてまとめ、またその水難事故の現場の状況を聞いて、他の人の存在が無かったため ) 無傷で、翌日から元気に園に通ったそうです。

 そのことが、職業を考えるときに意識の奥にあったのかどうか?ですが、大人になって「産まれ出でる生」と、「死」を真近に見る、そして、「死」に接する職業に就きました。
(ただ、戦争での死にはまだ出あったことはありません)

 日々のニュースでも種々の事件・事故、自死、病死、ありとあらゆる「死」が飛び込んで来ます。今、ここにこうして存在していることがまるで不思議なことでもあるかのように。

 目の前に死が迫っていたあの時、純粋に怖いと感じた「死」。
 今もし似たように「死」に直面したら……。
 そう考えると、いい意味でもっと貪欲に生きてみたいと逆に生に意欲が湧くのです。


 生きるということは、ごくささいな事から広がることさえあって…
  
  ある人は、コンビニに行って好きなプリンを探す。
  無かったらデパートに行ってみる。
  まだ無かったらネットで全国のプリンを集めて見る。
  まだ物足りなかったら、材料から厳選し、試行錯誤で自分で作って見る。
  そんな中に、プリンを買うために働き、同じプリンで何が違って味が違うのかという興味
  と知識、また材料をそろえるための学び、人脈、社会とのかかわり、等が見えてくること
  さえあるのでは…と思うのです。
  


 
 いつか訪れる死。苦悩のうちに死を選ぶかも知れないし、、こうしてPCを打っている途中に空から何かの物体が飛び込みあっという間に亡くなるかも知れない。これまで様々な病気で手術もしたけれど、新たな病気で苦しんだあとに受容して死を迎えるかもしれない。また、仕事や買い物の途中で事故に巻き込まれるかもしれない。

 必ず死を迎えるのだから
 そこを基軸に考えよう
 死を起点に、今を生きよう
 今ここにある「生」をもっと見つめよう
 瞬間 瞬間が死に向かうのではなく
 生きていることの輝き
 水におぼれたことが、目覚めたら(本当にあったことさえ)幻におもえてしまうのだから…。
 
 


 
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# by hitomi8114-i | 2007-12-15 05:05 | 小説・詩・読み物

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